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「物損事故」と「人身事故」

Q. 

 交通事故にあい、軽いむちうち症になったようですが、外傷はありません。加害者の方から、「人身事故」にすると警察で手続きをしなければならないなど面倒なので、「物損事故」にしてもらえないかと言われました。

 怪我が大したことがなければ、「物損事故」にしてもいいのでしょうか?


A.

 交通事故の実務では、被害者が診断書を警察に提出して警察が診断書を受理した場合を「人身事故」といい、被害者の方が怪我をしていても診断書が警察に提出されなければ「物損事故」扱いとなります。

 「物損事故」の場合、加害者に行政処分や刑事処分がなされず、被害者は自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)による支払いを受けることができません。

 これに対して「人身事故」の場合は、加害者は行政処分と刑事処分を受ける可能性があり、被害者は自賠責保険の支払いを受けることができます。

 被害者の方が警察に診断書を提出せず「物損事故」扱いになってしまうと、その後に被害者の方に症状が現れても賠償請求ができなくなる可能性があります。

 

1 「物損事故」・「人身事故」とは

 交通事故には、被害の対象によって「物損事故」と「人身事故」があります。

 一般に、損害が自動車などの物だけに生じるものが「物損事故」、人の身体・生命に生じるものが「人身事故」と言われます。

 しかし、交通事故の実務では、被害者が診断書を警察に提出して警察が診断書を受理した場合を「人身事故」といい、被害者の方が怪我をしていても診断書が警察に提出されなければ「物損事故」扱いとなります。


2 「物損事故」・「人身事故」の違い

(1)加害者について

「物損事故」の場合、損害を賠償しなければならないという民事責任が生じますが、刑事処分も行政処分も受けません。

「人身事故」の場合は、損害賠償に加えて、減点や免許取消しなどの行政処分、罰金などの刑事処分を受けることになります。


(2)被害者について

被害者が支払いを受けることができる損害賠償の金額は、「物損事故」か「人身事故」で異なります。

「物損事故」の場合、被害者は自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)による支払いを受けることができません。

「人身事故」の場合、自賠責保険により、120万円(死亡時は3,000万円)まで支払いを受けることができます。

裁判による損害賠償請求の場合も、「人身事故」の方が、慰謝料が認められやすいなど、「物損事故」よりも賠償額が多くなります。

こうしたことから、加害者の方から「物損事故」にしてほしいと頼まれて「物損事故」として事件が処理されてしまうと、その後に被害者の方に痛みなど症状が現れても賠償請求ができなくなってしまう可能性があります。



3 「人身事故」のご相談

 加害者の方は、行政処分や刑事処分を避けるため「物損事故」にしてほしいと交渉することが多いといえます。被害者の方が安易に「物損事故」にすることにして、警察に診断書を提出しなければ、後遺症が残っても損害賠償ができないなどの大きな問題が生じます。

 交通事故の直後は、気が動転してご自身の怪我の程度さえもわからないことがありますから、速やかに医療機関の診断を受けて診断書を取っておくことが必要です。