· 

交通事故の時効 2020年4月の民法改正を踏まえて

こんにちは。弁護士の田代です。 今回の動画では交通事故の時効について解説いたします。

 

時効については、2020年4月に 民法の改正が施行されて、改正民法の運用が始まっております。そこで、この点を無視して時効について語ることはできません。そして、この2020年4月の民法改正については、他の動画で重要な改正点を中心に解説しております。その中で時効の改正についてもお話しさせて頂いておりますが、今回の動画では特に交通事故の被害者の立場に立って、民法改正でどのように時効制度が変わってくるのか、その点を中心に解説したいと思います。

 

まず、具体例に即して解説していきましょう。 

今回、交通事故が2018年の1月の1日に起こりました。 

 

そして2022年の1月1日に被害者が加害者に対して損害賠償請求の訴訟を提起しました。 

 

請求の内容としてはまず修理費が挙げられます。被害者の方が車に乗っていた(車と車の事故)と仮定すると、事故で壊れてしまった車の修理費を請求しております。さらに、激しい事故だったため、被害者の方が怪我もしてしまいました。そこで、治療にかかった治療費、さらに怪我をしたことによる精神的損害(慰謝料)も請求しております。こういったケースで考えていきます。なおこの他の損害についてもございますが、これについては別途解説いたします。

 

そして、大事な点を補足しますと、まず一点目が、事故から訴訟の提起までの間に、2020年4月1日に民法が改正されております。改正民法の施行運用が開始されております。さらにもう一点補足の大事な点としましては、事故にあってから訴訟を提起するまで4年間経っております。このようなケースでの時効の問題、これをどのように考えるのかというこの観点から解説していきます。

 

さて、2020年4月1日に民法の改正を挟んでおりますので、改正前の民法、改正後の民法、それぞれを比較していきましょう。

 

 まず、改正前の民法での消滅時効では、「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又は法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する」と定められていました。

 

「損害および加害者を知った時」から3年間で時効になるということですが、この「損害および加害者を知った時」というのは、交通事故のケースでは、事故の瞬間に損害や加害者を知ったというふうに通常運用されております。そのため、事故から3年間行使しなければ消滅時効にかかってしまう、損害賠償請求ができなくなると、そんなふうに理解していただければ良いかと思います 。

 

このような規定だったのですが、民法の改正後はどうなったのかと言いますと、上の画像が改正後の同じ条文の規定です。読みますと、「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。」ということで、書きぶりこそ違うけれども、内容としては元のままですね。結局、交通事故から3年間で損害賠償請求権は時効になってしまうという定めのままです。 

 

ただ一つ大事な追加がされております。これが条文で言うと724条の2が追加されてまして、読み上げますと、「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中『3年間』とあるのは、『5年間』とする。」

つまり人の生命または身体を害する不法行為に限っては、前の規定の3年間という期間については5年間に延長されていると、こういう追加がされております。この点非常に重要な改正点です。

 

今説明しましたことを簡単に整理します。まず時効期間のまとめで、最後に解説しましたように、人的損害(生命又は身体の損害)については時効の期間が5年とされました。

 

そしてそれ以外の損害(物的損害等)は3年のままです。このように民法改正後の時効期間については、二つのパターンに分けられます。

 

そして最後に簡単に注意点についてご説明しますと、加害者本人に対する請求ではなく、保険会社に対する保険金の請求ですね。これも交通事故のケースではよく問題となります。例えば、加害者が加入している自賠責保険への怪我に対しての保険金の請求や、あるいは、被害者自身が加入してる人身傷害保険などに対して請求できるケースもたくさんあります。そして、このような保険会社に対する請求の場合、人的損害(治療・慰謝料等)の請求であっても時効期間は3年間のままです。これについては改正民法の5年という規定は適用されません。この点注意してください。

今説明しましたことに関して具体例に戻ってどうなるか見ていきましょう。

まず、2018年1月1日に交通事故が起こりました。

そして、2022年の1月1日に訴訟提起。事故から4年が経っています。 もう3年は過ぎて4年後の訴訟提起になってる。この間2020年4月1日に民法の改正がされてるということですね。

 

ここで一つ疑問に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、この間の民法の改正は、今回のケースで適用されるのでしょうか。このケースでは、2020年の4月1日に民法が改正されるより前の事故なんですよね。このような事故でも民法の改正が適用されるのかという点は、もっともな疑問です。

 

これについては、実は損害賠償請求の時効に関しては、特別に改正民法の施行日(2020年4月1日)時点で消滅時効が既に完成してる、つまり3年が経っているという状況じゃなければ新しい民法が適用されるということになっております。

 

そこで、今回のケースでも新しい民法を前提に考えることができます。ではどうなるのかと言いますと、もうお分かりかと思いますが、まず修理費については、物的損害ですので3年間の時効期間になります。そのため、事故から4年も経って訴訟提起をしても、基本的には時効が認められてしまいます。請求はできません。

 

次に、治療費や慰謝料は人的損害ですので事故から5年という運用になりまして、請求が認められることになります。

これが、具体例での結論になります。

 

そして最後に、先ほど話しましたその他の請求について補足します。例えば、怪我や治療費や慰謝料以外に、被害者の方が亡くなられたといった時の死亡による損害についてはどうなのかと言うと、先ほどの人の生命や身体に関してということなので5年の適用になります。

 

さらに補足しますと、これについては損害および加害者を知った時というのは死亡した時ですね。交通事故にあった時じゃなくて、死亡して初めて損害っていうものを知ったと言えますので、死亡してから5年間という風に考えることができます。つまり、事故ですぐにお亡くなりになるんじゃなくて、ちょっと長いこと入院されたりするとこういうケースでは、時効かどうかの判断で大事な点ですので補足致しました。

 

また、同じ話として後遺症による損害が挙げられます。怪我をして治療をしたけれども結局障害が残ってしまった、歩けないままだったと、こういったケースでは、症状固定(治療の終了)から5年間は消滅時効にかからないと、この点もご注意ください。

 

 ただ、いずれにせよ、時効については様々な不安な点もございます。この解説をご覧になられて、ここまでは安心なんだという風に安易に考えずに、できるだけ早く法律の専門家に具体的なアドバイスを求めることをお勧めいたします。

 

今回の動画では、交通事故の時効について、2020年4月の民法の改正を踏まえた解説をいたしました。また今回の解説をご覧になられて民法の改正について興味をもたれた方は、シリーズで民法改正について説明しております。是非そちらの動画についてもご覧いただければと思います。

著者紹介

弁護士 田代 隼一郎 

おくだ総合法律事務所 所属 

平成24年 弁護士登録  福岡県弁護士会所属 

九州大学法学部卒  大阪大学大学院高等司法研究科修了 

 弁護士 田代 隼一郎のプロフィール詳細