1 はじめに
社員が業務中に社用車を運転して事故を起こしてしまうということがあると思います。
事故により被害者に損害賠償義務を負うことになったり、社用車が損壊し修理費用がかかったりしたような場合、事故を起こした社員にその損害を請求できるのでしょうか。
2 社員への責任追求の可否
社員がその職務に関して横領や背任など故意に会社に損害を与えた場合に、その社員に対し損害賠償請求が出来るのは当然です。
しかし、業務中の交通事故のように「過失」により会社に損害を与えた場合は、損害の公平な分担や信義則の観点から、会社に対する社員の責任は制限されます。
判例によれば、社員と会社の責任割合は、①その事業の性格、②規模、③施設の状況、④労働者の業務の内容、⑤労働条件、⑥勤務態度、⑦加害行為の態様、⑧加害行為の予防もしくは損害の分散についての企業の配慮の程度、⑨その他諸般の事情等を総合的に考慮して決まります。
上記から、本件のような場合は、被害者に対する損害賠償義務を填補するために自動車保険に加入しておくことは当然として、社用車にも車両保険を付けておく等、一定の事故への備えをしておくことが重要です。
例えば、会社が車両保険に加入しておらず修理代金相当額の損害を被ったとしても、上記⑧の判断基準からすれば、損害の分散についての企業の配慮が足りなかった、として、社員の責任が制限される可能性があり修理代金全額の損害賠償を請求することは難しいと考えられるからです。
3 おわりに
これらの理屈は、業務中の社用車事故に限る話ではありません。会社の事業の執行についてなされた社員の行為(過失)により、会社が損害を被った場合全般にあてはまります。
過失の内容、程度によっては、会社が多額の損害を被る可能性もあります。
これを機に、一度備えておくべきことはないか見直してみてはいかがでしょうか。
(季報第6号(平成29年9月30日発行)より)
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