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交通事故現場と裁判所—土地管轄

 旅行中に交通事故にあった場合、どこの裁判所に訴えを起こせばいいでしょうか。例えば、福岡市に住むAさんが、佐賀市内で、長崎市に住むBさんに追突された場合で考えてみましょう。

 民事の訴えは、原則として、訴えられる人(被告)の住所を管轄する裁判所に起こすことになります。これは、訴えられる人の生活の本拠地で裁判を起こすことが公平と考えられるためです。野球やサッカーに例えると、ホームゲームが有利とされているので、戦いを挑む側が敵地に乗り込むのです。上の例ですと、Bさんの住所がある長崎の裁判所に訴えを起こすことになります。

 しかし、お金の支払いなどをする場合、支払いなどをする場所が決まっていれば、その場所で裁判を起こしても不公平とはいえません。このため、支払いなどをする場所を管轄する裁判所にも訴えを起こすことができます。交通事故による損害賠償は被害者の住所で支払いがされるべきといえますから、被害者のAさんの住所がある福岡の裁判所にも訴えを起こすことができます。

 また、交通事故のような「不法行為」に関する訴えについては、不法行為が起きた場所には証拠が多くあり、被害者にとっても有利と考えられるため、不法行為が起きた場所を管轄する裁判所にも訴えを起こすことができます。上の例ですと、佐賀の裁判所にも訴えを起こすことができるのです。

 このように、交通事故の場合はどの裁判所に訴えを起こすかの選択肢が沢山あります。また、車両保険や人身傷害保証保険などが支払われた場合、保険会社からの求償の関係で、裁判所の選択肢がさらに広がることもあります。

 

 ただし、一旦訴えが起こされた場合でも、審理の迅速化や原告・被告の公平の観点から、他の裁判所に事件が移送されるケースもあります。たとえば、上の例で、Aさんに車両保険を支払った保険会社(本社は東京に所在)がBを被告として東京の裁判所に訴えを起こした場合、事故現場や関係者がいずれも九州にあることから、九州の裁判所に移送されるケースが多いでしょう。

 

 このように、どのような訴えをどの裁判所に起こすかによって、訴訟が有利にも不利にも影響することから、ご自身で判断せず、まずは弁護士にご相談ください。

著者紹介

弁護士 田代 隼一郎 

おくだ総合法律事務所 所属 

平成24年 弁護士登録  福岡県弁護士会所属 

九州大学法学部卒  大阪大学大学院高等司法研究科修了 

 

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